エレベーターの中で

広いエレベーターには、ペアーの男女が乗っていた。
めざす階数を押してドア-が締まると、そのペアーと私は、
おし黙っていた。当たり前だけれど。
ふっと、私は何かやりたくなった。私が、踊りだしたら、
このペアーはどうするだろうか。派手にフラメンコのステップを
踏んでみようか? それとも、阿波踊りか?
多分、二人は見てみぬふりをして目を合わせないことだろう。
そう思ったら、思いとどまった。

用を済ませて、下りのエスカレーターに向かうと、鮮やかな緑と
黒のストライプのスーツを着た年配の婦人、セットした茶色の髪
は薄いネットで包んであった。日本人離れの着こなしだけれど、
彼女は微かにびっこを引いていた。足をかばってかローヒールだ
った。
目の下に彼女の姿を眺めながら下りて行くと、澄んだソプラノの
歌声が小さく聞えた。一瞬、空耳かと思った。鼻歌のようでいて
しっかりした小さな歌声がまた聞えてきた。
何か夢を見ているようだった。


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